「システム化のコンセプト」をベースにしたロードマップ策定
はじめに
当ガイドは、「システム化のコンセプト」パターンとあわせてご利用ください。
kintoneで継続的な業務改善を進めるにあたり「STEP1:目的設定」の段階で、システム化のコンセプトに沿ったロードマップを策定することで、個々の改善活動における意思決定の材料にすることができます。そのためここで取り上げるロードマップは「個々の業務改善のタスクスケジュール」ではなく「業務改善プロジェクト全体の方針」です。
ロードマップには、継続的な業務改善を進める中間目標地点である「マイルストーン」と、マイルストーンを実現する時期である「タイムライン」が含まれます。また、ロードマップでは業務改善の実装方法については定義しません。
また、ロードマップに定義されたマイルストーンとタイムラインは「絶対的な目標」ではなく「関係者の認識を揃えるもの」であり、環境変化に応じて柔軟に調整することが重要です。
(※この記事は2023年6月1日時点のkintoneをもとに執筆しています。)
想定読者
現場部門・IT部門・kintone開発者の方向け
内容
- ロードマップの目的
- ロードマップの要素
- ロードマップ資料の作成
- ロードマップ更新
- ロードマップの効果
ロードマップの目的
ロードマップの目的は、継続的な業務改善における方向性と時期に矛盾がないかを確認し、関係者間で議論できる足場を整備することです。
ロードマップが無いと、日々の業務改善に追われて方向性を見失ったり、業務改善に関する議論において論点がずれてしまい関係者間で認識齟齬が発生するリスクがあります。
ロードマップの要素
ロードマップは大きく5つの要素で構成されています。
- 現状:対象業務の現在位置。できていること、できていないことを整理する。
- ゴール:対象業務の理想の状態。対象業務の規模や状況に応じて3年〜5年を目安に理想の状態を設定する。 ;>
- コンセプト:「システム化のコンセプト」で定義されたコンセプト。
- マイルストーン:継続的な業務改善における中間目標地点。全ての中間目標地点はシステム化のコンセプトに沿っている必要がある。
- タイムライン:マイルストーンを達成する時期。
ロードマップ資料の作成
現状把握
はじめに、対象業務の現状を把握します。この業務はいつ、誰が、どのような作業をするのか、どのような仕組みを使っているか、などを整理します。ここでは対象業務の現在地点が把握できれば良いので、詳細な作業手順は不要です。
ゴール設定
次に対象業務の理想状態を設定します。ここでは「具体的な状態」や「具体的な実施内容」ではなく、「こんな状態なら良いな」という抽象度の高いキーワードを設定しましょう。ゴールを設定した背景を併せて記録しておきましょう。
対象業務に関わる人が共感できるようなゴールを設定するのが良いでしょう。
マイルストーンとタイムラインの設定
続いてマイルストーンを設定します。マイルストーンは、未来に設定したゴールから現在地に向かって逆算するように設定するのが良いでしょう。
現在地から実現可能な範囲でのみマイルストーンを設定してしまうと、ゴールに到達する道筋が見えづらくなることがあります。
例えば、「情報セキュリティの向上」と「紙帳票の削減」という業務課題があるとき、「業務処理の効率化」というゴール設定に照らし合わせて実施要否を検討することが重要です。「できることから取り組む」だけでは、「活動はしているのにゴールに到達できない」という可能性があります。
また、マイルストーンの中身を検討する際には、「システム化のコンセプト」パターンに照らし合わせてその方向性がズレていないか、不必要なマイルストーンが設定されていないか、を確認します。
※「システム化のコンセプト」とは、「業務の付加価値」をどのように高めるのかという方向性であり、どの改善要望を取り込むのかという判断基準です。
マイルストーンに設定する内容の例
- 特定部署へのアプリリリース
- 全社員への説明会の完了
- 基幹システムへの連携開始
- アプリ導入効果の報告
次にタイムラインを設定します。タイムラインは、実現のための工数見積もりではなく、特定の時点を設定します。設定しやすいタイミングとしては以下のようなものが挙げられます。次にタイムラインを設定します。タイムラインは、実現のための工数見積もりではなく、特定の時点を設定します。設定しやすいタイミングとしては以下のようなものが挙げられます。
タイムラインに設定する内容の例
- 社内
- 予算策定時期
- 組織変更・人事異動
- 四半期末
- 社外
- 法改正
- 新サービスの開始
- 大きなシステムリリース
マイルストーンとタイムラインを組み合わせて時系列に並べることで、ロードマップとすることができます。
策定にあたってのTips
関係者と調整・議論して策定するロードマップの目的は「継続的な業務改善において方向性と時期に矛盾がないかを確認し、関係者間で議論できる足場を整備すること」です。そのため業務改善リーダーがひとりでロードマップを策定・共有するのではなく、関係者と一緒に議論をしながら策定していきましょう。
ロードマップ資料の作成日・更新日・変更履歴を記録するロードマップ資料の作成日および更新日・変更履歴を記録しておき、どのように変化したのかを振り返りの中で確認できるようにしましょう。
詳細化することにとらわれず、大枠の方針を言語化するロードマップはWBS(Work Breakdown Structure)とは異なり、記載されたゴールやマイルストーンを「正しく詳細に表現し全員の認識を一致させる」ことは目的ではありません。あくまでも対象業務の業務改善に向けて「議論のための足場を整備する」ことを意識しましょう。
ロードマップ資料は1ヶ月以内を目安に作成するkintoneを使った継続的な業務改善の目安は1サイクル3ヶ月間を基本と考えると良いでしょう。3ヶ月以上だと業務変化に柔軟に対応しづらく、3ヶ月以下だと計画見直しの作業が余計に多くかかってしまいます。kintoneを使った継続的な業務改善を前提にしたロードマップにおいても1サイクル3ヶ月間を意識し、ロードマップ資料の作成期間は1ヶ月以内を目安とし、1サイクルごとに見直し、必要に応じて更新しましょう。
ロードマップの更新
ロードマップの進捗状況や外部環境の変化に柔軟に対応するために、ロードマップは定期的に見直すことが必要です。
見直すポイントは2つです。
- ロードマップ策定時に設定したゴールと背景を見直します。ゴールの再設定が必要ないか注意深く確認しましょう。
- 各マイルストーンとタイムラインを見直します。ゴールが再設定された場合は必然的にマイルストーンの変更が必要になります。ゴールが再設定されていない場合でも外部環境に変化があれば適宜マイルストーンとタイムラインを更新しましょう。
ロードマップの効果
ロードマップを活用することで、小さなリリース単位の優先順位を決めたり、対応リソースを調整することができます。
社内外の関係者とコミュニケーションを取る際には、一つ一つの小さなリリース単位ではなくロードマップを使うことで中長期の行動計画を策定することができます。
おわりに
ロードマップを策定することで、中長期の活動の方向性を関係者間で共有することができます。一方でロードマップは「一度策定したら絶対に守らなければ行けない」と考えてしまったり、「更新しないと古くなって誰も見なくなる」ということが起きがちです。直近の活動に囚われすぎずに、ゴール(理想状態)を常に意識しておくことが重要です。
このパターン実践ガイドを参考にロードマップを策定し、効果的に活用してください。
まとめ表
ロードマップの構成要素の具体例
No | 構成要素 | 概要 | 具体例① (在庫管理システムロードマップ) | 具体例② (営業活動効率化ロードマップ) |
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1 | 現状 | 対象業務の現在位置。できていること、できていないことを整理する。 |
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2 | ゴール | 対象業務の理想状態。対象業務の規模に応じて3年〜5年後の状態を設定する。 |
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3 | コンセプト | システム化のコンセプトで定義されたコンセプト。 |
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4 | マイルストーン | 継続的な業務改善における中間目標地点。全ての中間目標地点はシステム化のコンセプトに沿っている必要がある。 |
将来のマイルストーンから逆算して設定する。 (マイルストーンとタイムラインを一緒に設定する。) |
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5 | タイムライン | マイルストーンを実現する時期。 |