「桃太郎」は優秀なマネージャーだった!?

桃太郎に学ぶ、今日から使える
プロジェクトマネジメントの秘訣

情報量が増え、複雑化した現代において、一人で完結できる仕事はほとんどない。プロジェクトマネジメントは、すべてのビジネスパーソンに必要なスキルと言えるだろう。だが、書籍や講座の多くは専門性が高すぎるなど、「どこから手をつけたらいいかわからない」という人も多いのではないだろうか。

そんな中、童話にたとえて、分かりやすくプロジェクトマネジメントの手法を解説した入門書『童話でわかるプロジェクトマネジメント』が好評だ。執筆したのは、自身も国をまたいでマーケティングチームを統括している飯田剛弘氏だ。

たとえば、チームで鬼退治をやり遂げた桃太郎。桃太郎から学ぶべき「プロジェクトマネジメント」とはどんなものか。また、複雑・多様化している現代社会において、チームで成果を出すにはどんなスキルが必要になるだろうか。飯田氏に話を聞いた。

桃太郎はなぜ、優れたリーダーだったのか

── まず、童話を使ってプロジェクトマネジメントの入門書を執筆した理由を、教えてください。

仕事はチームでやり遂げる時代になった今、プロジェクトマネジメントの小手先のテクニックではなく、もっと根幹となる考え方を伝えたいという思いを持っていました。

童話は分かりやすいのはもちろん、実は社会や組織を生きる中での学びの宝庫。子どもだけでなく、大人にも多くの気づきを与える貴重な教材なんです。

さらに童話はロジック一辺倒ではなく、想像力や価値観、感情面にも踏み込むコンテンツ。困難を乗り越えるための、前向きな心を育ててくれます。

童話にたとえることで、「問題に対してどう向き合い、アプローチしていくのか」というプロジェクトマネジメントの核心を、分かりやすく伝えられると思いついたのです。

飯田剛弘 NASDAQ上場企業FAROの日本、韓国、東南アジア、オセアニアのマーケティング責任者。マーケティングポータルサイト「ビジネスファイターズ」運営責任者。南オレゴン州立大学卒業後、インサイトテクノロジーにて勤務。その傍ら、プロジェクトマネジメント協会(PMI)の標準本

──『童話でわかるプロジェクトマネジメント』では、桃太郎を鬼退治のプロジェクトマネージャー(以下、PM)に見立てていますね。著作において、桃太郎はどのような点が優れていたと解説していますか。

もっとも優れていた点としては、当たり前のことですが「鬼退治を成功させた」ということですね。「結果を出す」という強い意志を持ち、自分自身をいかにコミットさせるかは、チームとしてもPMとしても求められるところです。

その上でポイントを挙げるとすれば、大きく3つあります。

1つは、目標と報酬を設定して、チームのモチベーションを高めたこと。

目標と報酬を設定する

まず桃太郎は、鬼退治というプロジェクトの目標を明瞭に説明し、チーム全体が目指すべきゴールの認識を合わせました。

さらにイヌ、サル、キジに「きびだんご」という、非常に分かりやすい報酬を与えることで、彼らからモチベーションを引き出しました。これは専門的に言えば「外発的動機づけ」というものです。

しかし、きびだんごの効果は時間が経つにつれて、だんだん薄れていきます。そんなとき、桃太郎は鬼退治をする理由やその背景をメンバーにしっかりと説明し、彼らに当事者意識を持たせて、内面から動機づけしました。

この当事者意識は、自分自身から生まれるもの。なので評価や報酬のような外的要因に関係なく、鬼退治への意欲を醸成できます。自ら鬼退治の意味や価値を見いだすことで、さらに動機づけが強まるのです。

当たり前に聞こえるかもしれませんが、プロジェクトを成功に導くために、得られる報酬や評価だけでなく、目的やゴールを明確に設定しておくことも、非常に重要なんです。

2つ目は、密なコミュニケーションを取り、チームをまとめる力。

チームの意見を聞く

鬼ヶ島への道中、桃太郎はメンバーに鬼退治の方法や作戦に対する意見を求め、それを取り入れます。

ここで重要なのは、桃太郎が一方的に指示するのではなく、積極的に相手の考えを聞き、メンバーと対峙することです。そうすることで、みんなの意見を活かし、助け合う雰囲気を醸成できるのです。

そして3つ目は、現代風にいうとダイバーシティマネジメント。

多様な才能を活かす

これはまさに今の時代にも必要なことですよね。イヌ、サル、キジ、当然それぞれの特徴も得意なことも、スキルやアイデアも違います。

桃太郎はまずその違いを受け入れ、いかに強みを発揮できるかを考えました。そして適切に役割を与え、責任者や権限をハッキリさせたことで、メンバーは鬼退治を自分ゴト化することができたのです。

複雑化した現代で、チームで成果を出すためには

── とはいえ現代は、プロジェクトは複雑・多様化し、ビジネス環境も目まぐるしく変わるようになりました。桃太郎は現代でも、成果を出せると思いますか?

いえ、昔のままだと無理だと思います(笑)。

現代はビジネスモデルの陳腐化が早まり、プロダクトやサービスのライフサイクルが短縮化している中で、企業組織や戦略も変わっていかざるを得ません。

その急激な変化の中でプロジェクトを進めるにあたり、桃太郎の時代にはなかった問題が浮き彫りになっています。

現代のプロジェクトの特徴 1情報共有の複雑化 2プロジェクトメンバーの変化 3タスク量の増加

1つ目が情報共有の複雑化。テレワークや海外拠点など、直接顔を合わせないメンバーとのやり取りも増えました。情報共有の手段も、電話だけでなくメール、チャットツールなど多岐にわたります。

ファイルの置き場所も各自のPCだったりクラウド上だったりするので、とにかく情報があちらこちらに散らばっているのです。

2つ目は、プロジェクトメンバーの変化。以前よりも雇用の流動性が上がってきましたから、非正規雇用の社員も、転職する人も多いですよね。働き方改革が進むにつれて、ワークスタイルの多様性も広がり、在宅や時短で働く人もいれば、産休や育休に入る社員もいます。

けれども日本企業の多くは、外資系企業と比べると、個人のポテンシャルに頼る傾向があって、多くの仕事が属人化してしまっている。つまり、その人が長期休暇や転職で不在になると、プロジェクトが立ち行かなくなってしまうのです。

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3つ目は、タスク量の増加。一人のメンバーが複数プロジェクトを掛け持ちしていることも珍しくありません。また、業務が高度化・細分化されたことで、作業工数が増加しました。

目の前の大量のタスクに追われて、タスクの整理や優先順位の設定ができずにいる。その結果、抜け漏れが発生したり、効率が落ちて長時間労働につながったりするのです。

このような状況下だと、やるべきことも、その方法もバラバラになってしまう。何をゴールとしてプロセスを進めたらいいかも、見失いがち。その中で必要となってくるのが、「チームとして共通認識を持つこと」なのです。

── 共通認識を持つとは、どういうことでしょうか。

チーム全員がプロジェクトの明確な目的やゴール、進め方を理解できている状態にすることです。そうすることで初めて、チームが同じ方向を向けるんです。

多くの企業がミッション・ビジョン・バリューを重要視するようになってきているのには、こうした背景があります。

共通認識がなく、メンバーの向いている方向がバラバラだと、成果物の定義が人によって違ったり、スピード感が合わずに全体の進行が遅れたりしてしまう。結果的に、プロジェクトの質を大きく下げることに、つながってしまうのです。

プロジェクト成功のカギは「標準化」「可視化」「連携」

── チームで共通認識を持って、プロジェクトを成功に導くために、PMはどんなことに取り組むべきですか。

大きく分けて3つあると思います。

プロジェクトマネジメントの3ポイント 1標準化 仕事の進め方やルールを統一 2可視化 タスクやプロセス、成果物を明確に 3連携 メンバー間のオープンなコミュニケーション

1つ目は「標準化」。標準化というと「みんなが機械のように、同じ仕事をする」イメージを持つかもしれませんが、あくまでも、タスクの進め方や情報のフォーマットをシンプルにして、統一することです。

人材がますます流動的になっている中で、仕事が属人化している状況は好ましくありません。

作業プロセスを定義し、データのフォーマットや置き場所を整理して統一するのはもちろん、業務を進める上でいつ・誰が・どのようにコミュニケーションを取るのかもフォーマット化する。そうすることで、誰でも成果を生み出せる仕組みを、作ることができるのです。

標準化すれば、業務効率化も図れます。たとえば、プレゼンテーション資料の細かなデザインや、レイアウトの微妙なズレにこだわって、延々と直してしまう人がいます。

ですが全社的に使えるマニュアルや、スライドのフォーマットを作っておけば、ゼロから作業を始めなくてもすみますよね。

何が必須項目で何を優先すべきなのか。そこはしっかりPMが規定し、最低限これを満たせばOKという文化を作っていかなければなりません。

2つ目は、「可視化」。上記で標準化した内容をテキスト化、数字化するなどして、すべてのメンバーが理解できるように共有することです。

また、ミーティングの際「考えておく」とか「検討する」といった言葉をよく使いますが、具体的な行動に結びつかないため、このような曖昧な表現は徹底的に排除すべきです。

プロジェクトマネジメントを行うには、成果物を常に明確にすることが重要。「How」の「どのようにするか」ではなく、「What」の「何をするべきか」「何を生み出すべきか」を具体化した上で、タスクを洗い出さないといけません。

また「What」の前に「Why」の「なぜするのか」を考えることも重要です。

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僕自身外資系企業で、アジア諸国とオセアニアのマーケティング責任者を務めているのですが、シンガポールで働く社員が育休を取得した際、業務の可視化の重要性を再認識しました。

その社員は休暇に入る前、担当している業務を細かくリスト化。 誰に割り振るか、あるいは優先度が高くないから先送りするか、という話し合いを綿密に行いました。そのおかげで、その社員が不在になっても、全く支障なくプロジェクトを進めることができたのです。

そして3つ目は、「連携」。共通認識を持つには、やはりコミュニケーションが不可欠です。僕自身、コミュニケーションには一番の労力を割いていますし、しっかり時間を使えば使うほど、チームの関係は良くなります。

たとえば僕はチームメンバーとの1対1の面談を、かれこれ1000回以上はやっています。直接会ったり、テレビや電話会議などのツールを使って、積極的にやり取りをしています。

一見非効率なようですが、密なコミュニケーションは互いにWin-Winな結果を生むと思っています。

僕がコミュニケーションに15分使ったことで、面談相手のタスクへの理解度が上がって、作業時間が1時間短縮できたとしたら、お互いに大きな利益がありますからね。

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どの仕事を“しないか”という選択

── また、働く上で何に価値を置くかも、多様化している時代です。そんな現代における、桃太郎の「きびだんご」の役割を果たすものは、何だと思いますか。

もちろん一概には言えませんが、「時間」は、多くの人に共通して価値があると思います。特に若者は、自分の時間を大切にしたいという考えを持つ人が増えていますよね。

海外では、家族や自分の趣味、自己研鑽の時間を確保するため必ず定時に帰る、といったライフスタイルも珍しくありません。多様な生き方がある現代だからこそ、時間は多くの人に響く「現代版きびだんご」と言えるかもしれません。

── 日本でも残業時間削減の取り組みは本格化しています。ですが、目の前の仕事が膨大すぎて、+αの仕事になかなか手が回らず、「標準化などしている余裕がない」というマネージャーも多くいます。

一律に残業時間を減らそうとしたために、逆にマネージャーに業務が集まって、長時間労働になってしまっている企業もあるようですね。

ただ、厳しく聞こえるかもしれませんが、それって、マネージャーとしてやるべきことをやれていないと思うんです。

日本では、まず仕事の標準化に向けたフォーマットやテンプレート、チェックリスト作りが、マネージャーの重要な仕事、役割であるという意識が弱い。

そういうことをやらずに、必ずしも優先度は高くない目の前の仕事に手をつけ、結果として、マネージャーとしての本来の役割を果たす時間を確保できないのは、問題です。

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仕事の標準化を推進することは、残業時間削減に貢献できます。メールの件名に【至急】と入っていれば対応したくなる気持ちも分かります。ですが、マネージャーだからこそ、重要かそうでないかを考慮して、「どの仕事を“しない”か」という判断も、求められるのです。

── チームで共通認識を持つためには、どのような方法が有効でしょうか。

ツールを活用するのは、有効な手段のひとつですね。たとえばプロジェクトの進行管理であれば、ガントチャート。ガントチャートを使って、誰が何をいつまでにするかといった情報を可視化・標準化し、コミュニケーションを図ることで、共通認識を持たせやすくなります。

個人的に僕がツールを選ぶときは、目的ありきで選びます。あくまで何をしたいかが一番重要で、目的を達成するためにどんな機能が必要なのかを考えた上で決めるのです。

── 今回の取材は、サイボウズのクラウドサービス「kintone(キントーン)」が、桃太郎をキャンペーンのイメージとして使ったことがきっかけでした。飯田さんは、キントーンはどのようなツールだと思いますか。

時代に合ったツールだと思います。キントーンは、自由にカスタマイズできて、柔軟に形を変えられるプラットフォームですよね。さらに、ITの専門知識がなくても、現場レベルでサクッと設定を変えられる。

ビジネス環境の変化も早く、プロダクトやサービスの寿命も短くなっている中で、簡単に変えられて効果が実感できるツールは、重宝されると思います。

それとやはり、直感的に操作できて、どこからでもアクセスできる使い勝手の良さですね。ツールは、チームメンバー全員が使いこなせなければ、意味がありません。

その点でもキントーンは、プロジェクトマネジメントの「標準化」「可視化」「連携」を実現するには、有効なツールだと思います。

(制作:NewsPicks Brand Design 取材・編集:金井明日香 構成:大矢幸世 撮影:小島マサヒロ デザイン:堤香菜)

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