基調講演

イノベーションの本質

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
楠木 建 教授

最初に登壇した一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の楠木建教授は、「イノベーションの本質」と題して、自身の研究テーマであるイノベーション論について展開した。kintone自体がイノベーションであり、イノベーティブな使い方をユーザーにもたらしていると語りながら、「では、一体何がイノベーションなのか」と会場に質問を投げかけ、様々な例を紹介しながら「イノベーションを進歩と勘違いしているのではないか」と提起する。イノベーションは、単に「変化」「新しいこと」ではなく、ドラッカーの言葉を借りれば「社会を変える」こと。大衆に受け入れられるために商業化されていることが重要で、経済的な視点からは「非連続性がイノベーション足らしめているもの」であり、「パフォーマンスの次元が変わること」がイノベーションの本質だと説く。
ここで、フィルムとは違い簡単に消去できることで日常の記録に使うという新たな価値をカメラに与えたカシオのEXILIMや19世紀に刈り取り機を発明したハイラムムーアが起こした「分割払い」の考え方などを紹介した上で、イノベーションが成功すると新たなカテゴリを生み出すことに繋がると説明。
また、数字などで推し量れないイノベーションを嫌う経営層や株主の特性を紹介し、「価値の次元が見えすぎると、進歩にしか向かわない」という“可視性の罠”についても解説した。最後に、インセンティブである誘因ではなく、内発的な動機となる動因がイノベーションには不可欠だと締めくくった。

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kintone AWARD ファイナリスト講演

Beyond the Impossible
92年目のガテン系組織“スマートガテン化”への挑戦

中島工業株式会社 BI部 リーダー
普天間 大介 氏

kintone AWARD Finalist NO.1

kintone AWARDのファイナリスト1組目として登壇したのが、水処理や井戸の掘削など、水と空気に関連したサービスを提供している中島工業株式会社 BI部 リーダーの普天間 大介氏だ。同社では、品質の高いサービスを提供するため、100名規模の会社で14ヶ所の拠点を持つ超分散型の組織でビジネスを展開している。「分散型だからこそ情報共有が生命線であり、老舗故に社内にはノウハウとなる宝の山が眠っています」と普天間氏。そこで、作業の標準化を推進するなかで“スマートガテン化”を実施すべく、kintoneを活用。
基本機能を使いながら完璧よりも早期のリリースを目指し、自社の強みは譲らないという3つの開発方針を決め、結果として3ヶ月で80を超える基幹業務アプリを制作することに成功する。早期リリースすることで現場が炎上することもあったと振り返るが、現場と一緒に作り上げていくことで必要性と利益実感をもたらす努力を続けていったと普天間氏。
使用開始から1ヶ月あまりで300件の情報共有が行われ、社員はシステムではなく「kintone」と呼ぶようになったという。今後について普天間氏は「社員と一緒に育てていくシステムであり、やりたいことが山のようにある」と語る。参加型システムの強みを会場にアピールしながら、普天間氏が掲げる不可能を超えること(Beyond the Impossible)が実現できるシステムだとkintoneを絶賛した。

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グループ70社の事業を支える“大統領ボタン構想”

株式会社サイバーエージェント
内部監査室 マネージャー
鹿倉 良太 氏

kintone AWARD Finalist NO.2

続いて登壇したファイナリストは、株式会社サイバーエージェント 内部監査室 マネージャーの鹿倉 良太氏だ。グループのガバナンスをコントロールする内部監査室に勤務しながら、システムの導入や業務の効率化を推進する役割も負っており、現在は決算の早期化と経理や人事などバックエンド業務のシステム化を強力に押し進めている。このバックエンド業務のプロセス作りにkintoneを活用しており、「一言でいうとボタン1つで決算が完了してしまうプロセスを構築する」ことを目指した “大統領ボタン構想”と呼ばれるプロセス作りに取り組んでいる鹿倉氏。具体的には、広告代理店向けの販売管理システムやゲーム事業向けの実績管理アプリ、メディア向けの実績管理といった、販売や売上を管理するDOXと呼ばれるアプリ群を、kintoneを活用して構築しているという。その成果、バックエンド業務に関わる人員数を維持したまま会社数の増加にも対応できる環境を整えたことで、年間1万時間の削減を達成。この業務改革にkintoneが大きく貢献していると鹿倉氏は評価する。「one fact one time」というキーワードで開発を進めており、「真実は1つしかないのでプロセスの中で情報はこね回さない」という思想を持ちつつ、バックエンド業務を管理するのではなく“業務をなくしてしまう”ということを目標に開発を進めていくと今後の展開を語った。

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地域農家横断バリューチェーンを推進する

NKアグリ株式会社 代表取締役社長
三原 洋一氏

kintone AWARD Finalist NO.3

そして最後のファイナリストとして登壇したのが、ノーリツ鋼機の社内ベンチャーとして起業したNKアグリ株式会社 代表取締役社長 三原 洋一氏だ。形や大きさなど既存の規格にとらわれることなく、食感や安心・安全を念頭においた農業に取り組んでおり、センサーを使ってKPIを設定するなどデータを利用した予実管理にも力を注いでいる。現在は、集約型の植物工場でレタスを作るだけでなく、季節による旬を逃さぬよう地域をつないで1つのバリューチェーンを作り出すなど、新たな農業の形を目指している。そんな同社では、地域ごとに生産者である農家と契約しているため、12名しかいない社員全員が全国を飛び回って日々の業務を行っており、業務フローや情報共有などに課題があったという。
そこで、まずは決裁業務のためにわざわざオフィスに出向く手間を解消すべく、三原氏自らの手でkintoneを使って承認プロセスのアプリを作ったという。すると、他部門からもkintoneを活用したいというオファーが殺到することに。現在は、売上速報や収穫実績、産地報告など3ヶ月で約40を超えるアプリが作られており、「まさにファストSIのよさがでている」と三原氏は評価する。
そして販売量の予測精度が向上した結果、植物工場のロスが劇的に減るという効果も生み出している。
「やはりチームワークがよくなったということが大きい」。今後は、社内で起きた素晴らしい体験を、一緒に取り組んでいる農家とも共有することを目指していると熱く語ってくれた。

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ユーザー事例発表

kintone×KOTOBUKI 業務のマニュアル化

株式会社コトブキ 設計部
高松 雄作 氏

kintone ユーザー事例発表 1

前回のkintone hiveで自ら事例発表を名乗り出た株式会社コトブキ 設計部の高松 雄作氏が登壇し、kintoneによって業務改革を実現した活用例を発表した。“パブリックスペースを賑やかにすることで人々を幸せにする”ことを目的に、公園をはじめとしたパブリックスペースの遊具や案内標識などを提供している同社だが、東北復興の需要によって受注が膨らみ、設計部門が残業過多に陥ったという。「営業部門から設計部門に転属してきたのですが、残業の多さを目の当たりに。2020年のオリンピック需要も考えると、何かしらの対策を今から検討する必要があると考えたのです」。そこで新たに第二設計室を設置し、カンボジアへ設計のBPOを実施することに。ここで、メールやFAXの代替えとなる外部発注用アプリとしてkintoneを活用し、情報共有が円滑に行えるようにした。
さらに、ノウハウを持っているシニア社員から情報を吸い上げるべくkintoneを活用したことで、業務の流れが可視化でき、作業負荷の把握が容易になったという。「マネジメントコストが大きく削減できた」と高松氏は自信をのぞかせる。kintoneは、ちょっとしたことから始めることができ、ノウハウの蓄積や企業間での運用も可能だ。そして何より「失敗できるのがkintoneのよさ」と高松氏はその魅力について語った。

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おばけExcelをkintoneに 属人化を解消

三井化学株式会社
松田 正太郎 氏

kintone ユーザー事例発表 2

続いて事例発表として登壇したのが、三井化学株式会社の松田 正太郎氏だ。すでにユーザー同士の中でkintoneのエバンジェリスト的な役割を担っている松田氏だが、今回紹介したのは、同社と出光興産のジョイントベンチャー企業で活用している例だ。双方の親会社から出向している人が多く、社員コードなどそれぞれ異なる体系で個別に管理されており、社員台帳管理や異動履歴管理、労務費管理など社員の管理をうまく行う必要があったという。「従来は担当者1名の属人化した方法で管理されており、複雑怪奇な“おばけExcel”で運用されていました」と振り返る松田氏。これを解消するべくkintone上に社員マスタや組織マスタを作成し、既存のDBと連携させ社内業務ポータルなどで活用する仕組みを構築。「アプリ開発は超スピードで行うことができ、シンプルで優しいUIで人事担当者にも満足いただいている。業務ポータル連携も実現し、情報共有も可能になりました」とkintoneを高く評価する。ただし、既存のおばけExcelからkintoneにデータ登録するところは手作業で非常に苦労したと松田氏は振り返る。
最後に、「kintoneは情報システム部門の救世主になるはず。ノウハウや事例を共有し、ディスカッションできる場がこのkintone hive。ぜひユーザー同士で繋がっていきましょう」と会場に呼びかけた。

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kintone hackkintoneを取り扱うデベロッパーによるライトニングトーク

金春 利幸 氏の写真

“だけじゃない”kintone

アールスリーインスティテュート マネージャー
金春 利幸 氏

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クラウドサービスなどのプラットフォームを利用して“ハイスピードSI”を提供し、サイボウズ公認kintoneエバンジェリストとしても活躍しているアールスリーインスティテュート マネージャー 金春 利幸氏が昨年に引き続き登壇し、"だけじゃない”kintoneと題して同社が開発した事例をレベル別に紹介した。具体的には、明細ごとに自動連番する機能やチャットツールに通知を行うようなカスタマイズを施した経費精算アプリをはじめ、生産前工程の状況をkintoneに入力し、特定のロジックに基づいて遅延しているかどうかの情報を積極的に“見せる化”した事例、kintoneとオープンソースのETLツールを連携させ、基幹システムでの入力を省力化させた事例などだ。
他にも、様々なシステムから抽出されたExcelやCSVなどをkintoneのインポート機能で収集、集計を実施する活用例を紹介し、「1度ボタンを押すとAPIを1万回以上呼び出すというもので、サイボウズさんに怒られています」と説明、会場の笑いを誘った。そして最後に、kintoneの開発プラットフォームをサービスとして提供する「gusuku」を紹介し、プレゼンを締めくくった。

四宮 靖隆 氏の写真

kintoneプラグイン とことん紹介

株式会社ジョイゾー 代表取締役
四宮 靖隆 氏

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日本初の定額制来店型システム開発「システム39」を商品化し、現在は“ミスターkintone”としてkintone案件を数多く手掛けている株式会社ジョイゾー 代表取締役 四宮 靖隆氏が登壇。同社で開発した様々なkintoneプラグインを、事例を交えながら詳しく紹介した。「管理画面から設定可能で、設計変更への柔軟に対応できるだけでなく、複数アプリで利用できるのがプラグインのメリット」と力説する。実際に紹介したプラグインは「自動採番」「サブテーブルサムアップ」「ルックアップ一括更新」などで、実際のデモを交えながらどのように活用できるのか、その動きをわかりやすく紹介。
また前回のkintone hiveで「伊佐さんから作ってくださいと“無茶ぶり”された」と経緯を語りながら、会場で要望の多かったkintone化デヂエ化プラグイン第2弾「ユーザー/組織別一覧初期値設定」機能を10月20日まで期間限定で無償公開することを発表、実際のプラグインを公開してくれた。

植草 学 氏の写真

kintoneで、ロボット操作!
~kintone×Pepper活用事例~

M-SOLUTIONS株式会社
植草 学 氏

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前回開催されたライトニングトークチャンピオンであり、CYBOZU AWARD 2015にて部門別賞を受賞した、M-SOLUTIONS株式会社の植草 学氏が最後に登壇。kintoneで感情認識パーソナルロボット「Pepper」を操作する活用事例を紹介した。まずは話す・見せる・動くといったコミュニケーションが得意なPepperの特徴について振り返りながら、店舗やショップなどでの活用例を披露。また、同社が提供する業務支援サービス「Smart at」とkintoneを連携させ、受付で会社説明をさせるなどの実例にも触れた。「QRコードをかざすとお客さまの名前を呼ぶという仕組みを導入したところ、QRコードの発行枚数が11倍に伸びたという例も」とその効果を力説する。他にも子供向けの教育アプリやイベント事例などPepperの具体的な活用方法をわかりやすく紹介。kintone連携については、書き込みと読み込みのアプリを無償公開しており、ノンプログラミングで開発できるようなソリューションを提供している植草氏。kintone上で設定し、話す内容を入力するだけでPepperが動かせるサービスを月額3.8万円で提供していることにも触れながら、デジタルサイネージとの連携など今後の方向性についても語った。

kintone AWARD審査結果中島工業株式会社が第1回グランプリに決定

グランプリの表彰の様子

グランプリ企業の事例内容は日経コンピュータ11 月12 日号(11 月10 日発売)にも掲載されます

今回新たに創設されたkintone AWARDにおいて、栄えある第1回目のグランプリを勝ち取ったのは、中島工業株式会社の普天間氏だ。審査委員長の楠木教授からトロフィーと目録を授与された普天間氏は「システムは本来人間を幸せにするもの。やっと体現できるシステムに出会えたことがうれしい」と受賞の喜びを語った。審査員からは「伝統的な企業でありながら新しいことにチャレンジしていることはとても素晴らしい。その挑戦をkintoneが支えていることがよく分かった」(桔梗原氏)、「職人集団で分散型の組織ではツール導入が難しい面もあるが、トップの積極的な関与と“楽しい雰囲気”を演出することで現場に広めている点を学ぶことができた」(倉貫氏)、「3社ともシステムの作り方、使い方にイノベーションが起きており、横に並べて評価することが難しい。継続的にイノベーションが出てくるというのはkintoneの哲学のど真ん中だと感じる」と評価コメントを寄せている。なお、サイバーエージェントの鹿倉氏と、NKアグリの三原氏はそれぞれ特別賞を受賞した。

集合写真

左から)
サイボウズ 伊佐 政隆
株式会社ソニックガーデン 倉貫 義人氏
株式会社サイバーエージェント 鹿倉 良太氏
中島工業株式会社 普天間 大介氏
NKアグリ株式会社 三原 洋一氏
一橋大学大学院 楠木 建教授
日経BP イノベーション ICT 研究所 所長 桔梗原 富夫 氏

懇親会

kintone hive終了後には、2015年7月に移転したばかりのサイボウズのオフィス内で懇親会が開催された。サイボウズ代表の青野が登場して乾杯の発声を行い、懇親会がスタート。「Cybozu Bar」ではASK THE SPEAKERと題して登壇者との交流が図れる場が設けられ、Pepperの動かし方が披露されるなど多くの人が興味を示していた。また、多彩な料理が提供されていた懇親会会場では、株式会社ジョイゾーの山下氏、サイボウズスタートアップス株式会社 田里氏、ICTコミュニケーションズ株式会社 渋谷氏によるライトニングトークが始まり、会場を巻き込みながらのトークに大きな盛り上がりを見せていた。最後に、グランプリを獲得した中島工業株式会社の普天間氏から締めの挨拶が行われ、第2回kintone hiveの懇親会は幕を閉じた。

kintone hive logo

次回 kintone hive VOL.3 もお楽しみに!